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葛西善蔵は、いくつかの作品をアンソロジーなどで読んでとても感心した経験があるが、まとめて読むのは初めて。私小説中の私小説。私小説を嫌いなわけではないけれど、読むときに、情けない男のウジウジにつきあっている、という感じが心のどこかにあるのは確かだ。でも読んでみたら、おもしろいこと、おもしろいこと。全3巻の全集の1冊を手にしただけだが、夢中になってしまった。
でも葛西のおもしろさをあえて脇において、ここに私が書き留めておきたいのは、津軽書房というところから出ている(葛西は、太宰と同じで、もともとは津軽の出身なのだ)この本の作りのよさだ。とは言っても何も特別なことはしていなくて、ごくオーソドックスな形なのだ。スタイルとしての「オーソドックス」を選びました、ではなくて、ただ当たり前のこととして誠実に本を作ったら必然の結果としてこうなりました、という気負いのなさが、本の存在全体から伝わってくる。
本自体の厚みに似合うだけの堅牢さがあって、クロスの表紙が手に温かく馴染む。版型は、天地を少し縮めて正方形に近づけてあるのだが、このことによって、本を開いたときの左右への重力のかかり具合と本自体の重さのバランスが非常によくなっている。ページはしっかりと気持ちよく開くし、文字の形や大きさや組み方も申し分ない。
地方の小さな出版社が、すうっとこのような本を作り得てしまう時代があったのだなあと、思わずため息をついた。これを「文化」と呼ばずして、何を「文化」と呼ぶのだろう。(表紙は無地なので、写真は扉ページ)
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