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「本」と「ゆきのうえ」の のどかな日々
2001.11.9
 上野千鶴子「うわの空 ドイツその日暮らし」(朝日文芸文庫)。1991年から4月からの1年間、壁崩壊の余震をリアルに残すドイツに滞在したときのエッセイ。好奇心の強さ、能力の高さ、順応性のよさで、どこへ行ってもぐいぐい対象に食い込んでいくこの人の個性(優秀さ、と言い換えてもいいのだけれど)が、まったくうらやましい。事実関係などに10年の年月の隔たりは感じるけれど、旅する者がふとかいま見せる世界との違和感、無防備な心が素直に綴られていて、上野千鶴子の知らなかった一面を見るように感じた。新しい土地が与える刺激にもなれてきて、「ドイツなるもの」への奥深くへぐぐっと沈み込んでゆく後半が、特におもしろかった。


2001.11.7
 食べることや料理すること、ましてや甘いものがそんなに得意でなくても、洋菓子とフランス菓子がまったく違うものであることくらいは知っておいて良いかもしれない。「フランス菓子 基本の基本」(文化出版局)と題されたこの本は、「ル・コルドン・ブルーに学ぶ」というサブタイトルがついていて、フランス菓子が、卵と砂糖、粉、バターという四大元素から立ち上がってくるひとつの帝国であることを教えてくれる。きれいでよくまとまっていて、わかりやすい本でした。ま、これを見ながら我が家のキッチンで「サブレ・オ・フリュイ・ルージュ」なんかを作ることは、たぶん永遠にないだろうけど。


2001.11.6
 「タンゲくん」(福音館書店)。読むたびに、愛とか恋とかの本質をこんなに的確に表した本はないんじゃないか、と思ってしまう。
 片山健の絵本を読むとき、絵の背景にさりげなく描かれた本棚、そしてそこに並んでいる本のタイトルに注目している人は多いと思う。コッコさんの家では、武田百合子(もちろん文庫なんかじゃなくて)なんかが並んでいたけれど、タンゲくんという片目の猫がふらりと迷い込むこの家の本棚には、大島弓子が何冊かと、ちびまるこちゃんのシリーズが並んでいる。あとは谷内六郎の本。枕元には「3びきのくま」。もちろん小笠原豊樹訳の福音館版。


2001.11.4
 ジム・トンプスン「ポップ1280」(扶桑社)でごきげん。骨があって、ガッツがあって、下品で色気があって繊細。ドストエフスキーのアメリカ・ヴァージョン、マーク・トウェインの裏ヴァージョン。南部の小さな町であらゆる汚い手を使って人殺しを重ねる主人公の男の姿が、始終イエス・キリストと重なる。初めてこの作家を読んで、タランティーノの源流を知る。


2001.11.1
 田中小実昌「バスにのって」(青土社)を楽しむ。読んでいる間、バスにゆられているような気分。角をまがっていくみたいに、話題が展開していくさまもよい。「ユーモアやジョークは、つけたしでできるものではない。ちょうど、禅のように、そのひとそのものがユーモアのひと、ジョークのひとでなくちゃ、ユーモアやジョークはでてこない」とあった。


2001.10.31
 渡部直己「泉鏡花論 幻影のちょ機」(河出書房新社)。初版本(1983年 国文社)が出たすぐの時に読んで、「書かれたもの」ではなく、「書くことのドラマ」そのものとしてのテキストとの出会いへと導かれた幸福に心躍らせたことを思い出す。20年近く経った再度読んで、さすがにかつてのままの貌とはいかなかったが(こちらもだいぶすれてしまったし)、教えられることは多かった。
ところで、夕方陽のおちた道を歩いていて、赤いマントをひるがえす小柄なスーパーマンとすれ違った。鏡花の読み過ぎかと目をうたがったけれど、今日はハロウィンなのでした。


2001.10.30
 ここ数日は、鏡花ブーム。岩波版全集の活版文字をなでる目が心地よい。あわせて鏡花関連の本もいくつか。巖谷大四「人間泉鏡花」(福武文庫)は、鏡花の一生を追った評伝。評伝というより、世間話。でも、知らなかったエピソードがいっぱいで楽しめた。
 鏡花がある芸者と恋仲になったとき、それを知った師匠の尾崎紅葉が、「文学をとるか女をとるか」とつめより、ふたりは泣く泣く別れたとされていて、「婦系図」ではそのエピソードがそのまま使われているのだけれど、師匠の命令には逆らえないからと別れを切り出す男に「別れろ切れろは芸者のときにいう言葉、いっそ私には死ねとおっしゃってください」(きわめて不正確な引用)と泣かせるセリフを吐いたとされる当の芸者と、鏡花は紅葉の死後結婚しているのだ。師匠が死ぬまで待つというのが、さすが明治の男は義理堅いね。それで、めでたく結ばれたふたりは、ずっとラブラブだったんだって。良かったね。


2001.10.29
 「シルヴィア・プラス詩集」(小沢書店)。本屋で見つけて「小沢書店、もう手に入らない」と反射的に買ってしまう。この詩人をちゃんと読むのは初めて。1回読んで「?」と思って、もう1度読んで、撃たれる。こんなにくんずほぐれつ、のたうちまわって挌闘したのに、後の時代の人から「オープンに頭つっこんで死んだ人」って呼ばれるなんて、そりゃないよね。


2001.10.27
 新しくなった「本とコンピュータ」(トランスアート)をめくる。5種類の薄い雑誌を合わせる(ミックスさせるのではなく、そのままつないである感じ)、という何とも大胆な編集は、何だか躍動感があって、以前の形よりずっと楽しめる。紀田順一郎とか阿刀田高といった人の論には「ん?」という所もあったが、現場をリアルに切り取った、たくさんのコラムは、どれをとっても興味深い。


 


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