 |
■2007.3.29
本屋さんで何度か手にとって迷った挙げ句、とうとう買ってしまった「まんがキッチン」(アスペクト)。
レシピブックは、料理を作るよりも読むほうが楽しいほうだし、まんがのことも、全然知らない。なのに買ってしまったのは……うーん、なんか楽しそうだったから。
著者の福田里香さんは料理研究家。好きなまんがからインスパイアされたお菓子を作っていく。そして、そこには、どうしてこういうお菓子になったか、という説明があるのだけれど、これらが、かなり濃密な作品論になっている。まんがの作品のなかで、食べ物や食べるという行為がどう扱われているかというところがメインテーマで、ふむふむ、なるほど、とっても勉強になりました。
その作品論の出来について私は判断する資格はないけれど、それとは別に、本全体に溢れている、この自由さが魅力なのだ。まんがを愛し、まんがを語り、ついでに(ついでじゃなくって、こちらが本職なのだが)お菓子まで作ってしまう。お菓子はみんな、「私、おいしそうでしょ」というような上品ぶった顔はしていなくて、どこかキッチュでジャンクで、夢のような甘さを体で表している。うん、この自由さがいいのだ。 |
|
 |
 |
■2007.3.28
「自主独立農民という仕事」(バジリコ)。
森まゆみの新しい本が出ていた。島根県は出雲で農業と酪農をおこなう、佐藤忠吉氏に取材した本だ。農業がテーマなんて意外だなと思いながら読み進める。佐藤さんの語る農業、経済、地域についての考え方は、大地に根をおろし、日々生命を相手に生きている人でなければ生まれてこないような発想と説得力に満ちていて、その冒険心あふれる生き方はとっても魅力的。おもしろく読み進められるのだが、でも、いつもの森まゆみの闊達さがないようにも感じられて、ちょっと変だな、という気がした。
そして、あとがきにたどり着くと、その謎がとけた。「この私の生涯もっとも手間のかかった一冊」と書いてある。原稿をまとめあげるまでの、たくさん試行錯誤の跡が残っていて、だから、どこか滑らかでなくギクシャクしているのだ。でも、そのことが、この本の欠点であるとは、私には思えなかった。
谷根千を持ち出すまでもなく、生粋の町っ子だと思ってたら、森氏は、今は宮城県で半農半筆の生活をしているという。その生活が、きっと、この本の土台になっているのだろう。 |
|
 |
 |
■2007.3.17
去年の「わたしを離さないで」と一緒に、好意的な批評をよく目にしたのが、この「鴨川ホルモー」(産業図書編集センター)。「ホルモーって何?」という気持ちに引っぱられて読み進み、読み終えたあとは、ひたすらさわやか。こんな青春ものを読んだのは久し振りだわ、なんて、心に風が吹いたりもする。
小さなオニたちが繰り広げる戦いはちょっとゲームのようでもあり、青春ものに欠かすことのできない貧乏ギャグ、片想いと涙なんかも、きっちり押さえられているのだ。むふふ、楽しみました。 |
|
 |
 |
■2007.3.10
東宏治「ムーミンパパの「手帖」」(青土社)。
何気なく手にしたムーミン論、いや、ヤンソン論。著者はあとがきで「読者はきっとこの本に引用が多いと思うだろう」と書いているのだが、その通りで、ヤンソンの諸作品から、いろんなところを抜き出し、それをコラージュすることで作られたようなヤンソン論なのだ。
トーベ・ヤンソンの作品は好きだけれど、好きなわりに片っ端から読むというほどではなくて、それはなぜかと言えば、一冊読むと感動がじわっと体中に広がり満たされてしまうので、もっと読みたい、という気になりにくいからだ。でも、このコラージュ作品を読むうちに、ムーミンなどで「なんだかすごいなあ」と漠然と思わされたものの正体が次第にくっきりと見えてくる。
自分の論理のなかに作品を引きずりこむのではなく、やさしくていねいな手つきで作品を扱う、そんな方法は、ムーミンにふさわしい気がした。読み終わったあと、私の目の前に広がるヤンソンの世界は、確かに、以前より谷に山の稜線がはっきりと見えるようになったが、その神秘的な美しさは増すばかりである。 |
|
 |
 |
■2007.3.5
「フミコのやわらかな指 料理の生まれる風景」(朝日出版社)。
フランスでシェフをしている女性が自分の仕事について語る。東洋人としても女性としても初めてのフォションのエグゼクティブ・シェフということで、あちらこちらのメディアに取り上げられている人らしいが、私は全然知らなかった。どうして買ったのかと言えば、上田義彦の写真のせいかな。書店で見た本の雰囲気が何となく気になったのだ。
その狐野扶実子さんの語りが、上手に文章にまとめられている。とは言っても、野心満々のサクセスストーリーではなく、むしろストイックで地味な印象。あ、でもやっぱり、スゴイところもちゃんとスゴイ感じで書かれている。ちょっと変わったまとめかただけど、うまい。
フランスの料理界が、それこそ生き馬の目を抜く激しい世界であることは、誰にでも想像がつく。この本ではほとんど触れられていないけれど、妬みややっかみも相当あったことだろう。並はずれた味覚と美的感覚、体力はもちろん、それから語学力に交渉力、統率力、精神力。シェフに必要なものは数多い。
外交官の夫についてフランスに住むようになり、軽い気持ちで入ったコルドン・ブルーが、才能を開花させるきっかけだった。そう考えると、ラッキーだったようにも思えるが、もちろん幸運だけでやっていけるほど甘い世界ではない。予期せぬ困難が襲っても、まじめに、あきらめず、あらゆる努力で立ち向かっていく、この力こそ才能なのかもしれない。 |
|
 |
 |
■2007.3.2
表紙の鬼の絵がかわいい。期待に違わぬエッセイが並んでいる。文章のトーンはいつも通り落ち着いていて、それでいて飽きさせない。
ぽっぺんとは新年の季語だとのこと。ふっくらとあたたかい感じが、本の内容にぴったりで、よいタイトル。でも、ほとんどが冬の季節の話題なので、もっと寒い時に読みたかったと、ちょっと悔やんだ。
同じ年代の書き手ということで、勝手に親近感を覚えたりもするのだが、よく考えてみると、この人と私とでは、好むものも生活感覚も、正反対と言っていいくらいに違っていて、それが居心地悪く感じられる瞬間がときどきある。外国の人のエッセイや、うんと昔の人のエッセイを読むときには、そんなこと全然意識しないのに、おかしなものだね。 |
|
 |
|