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島で生きる

「日の移ろい」
島尾敏雄
中公文庫 550円
(写真は単行本)


  島尾敏雄の日記作品。救いようのない鬱をかかえた心で記す島暮らしの記録である。

  ここの風景に接するたびに、私はいつも
  熱っぽい運命的な音響に囚われた自分を見つけ出す。
  その日も強い風と、珊瑚礁の向こうがわで荒れている波や、
  ときおり通りすぎて行く驟雨がまざり合って、
  静まることがなく果てしのない海洋のうねりの中に
  引きずりこもうとするようなうなりの音をつくっていた。

ここに描かれる風景は、私たちがイメージするトロピカルな奄美大島とは、正反対。作家の目は、ざらざらとした自分の心にのみ向けられていて、眩しいはずの太陽も、色あざやかな自然もすべてがグレイに包まれている。でも暗い色彩でありながら、すべてが侵しがたい光を放っているのだ。行間からかすかに伝わってくるなまあたたかい海風や、しめった土の匂いが、感覚の奥底をふるわせてゆく。
「島暮らしの記録」
トーベ・ヤンソン
冨原眞弓/訳
筑摩書房 1995円


  トーベ・ヤンソンが、友人たちの助けを借りながら家を建て、静かな暮らしを営んだのは、離れ小島、というより、岩礁の一部。フィンランドの冷たい海の上に顔を出した岩の上。魚や鳥を捕まえて食料とし、日用品は小さなボートで運ぶ。
まさに記録という言葉がぴったりの、素っ気ない言葉で綴られた毎日。ただし、日記そのままではなく、日記風の小さな小説として読むべきであろう。
海の波と風とを、布1枚の緩衝剤もなく、文字通りダイレクトに受ける暮らしだが、きわめてトーベ・ヤンソンらしく、描写は淡々としている。けれど、行間から、その厳しさと自然との交感のあたたかさ、そして孤独というものの味わい深さが伝わってくる。
巻末にある、訳者冨原眞弓の解説が、フィンランドの人の暮らしについてを含め、作品の背景にあるものをさりげなく示していて、よい。また、見返しには、挿絵画家だったトーベ・ヤンソンの母による、舞台となったクルーヴハル(万力島)の素敵な絵も。
「しま」
野見山暁治
光村教育図書 1600円


  「カーテンを あけたら しまが みえた」と始まるこの絵本は、強い島へのあこがれをかき立てる。島―遙かなるもの、唐突なるもの。いつこの本を開いても、野見山暁治の絵にこのような形で出会えることの意外性が、私を喜ばせる。
「南島紀行」
斉藤たま
福音館書店 1300円


  種子島、屋久島、喜界島、奄美大島、徳之島をめぐる旅。斉藤たまは、日本の辺境を旅して、土地の遊びやことば、風習の採集を続けた人。この本では、フィールドワーク(今風に言うと、だけど)の目的をいったん脇に置いて、旅することそのものを楽しんでいる。島で出会った人の家に宿をかり、船にゆられているか、歩いているか、それだけの旅の姿そのままの、素朴さが胸を打つ。
「島の精神史」
岡谷公二
思索社 1600円


  「島を旅していていつも感じるのは、島の孤立ということだ。島は、この孤立という状態から逃れることができない」。柳田国男、土方久功、中島敦、島尾敏雄らを経て、ゴーギャン、レリス、レーモン・ルーセルへと。「島」の持つイメージと精神をさぐる刺激的な旅。