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東京散歩
ぼくはこのタクシーの運転手が好きだ
まるで生きることに意味がないみたいに
東京の暗い通りをかれはとばしてゆく
ぼくもおなじように感じているんだ
のっぺらぼうの群がる街、空虚と廃墟に満ちた街。
そんな東京もこの足で歩けば、違う地図を手に入れることができる。
電車や車をあきらめたなら、路地の奥やガード下に折り重なる
無数の物語に出会えるだろう。
本郷、神楽坂、四谷、青山、麻布、白金など
東京の山の手を紹介する「東京山の手ハイカラ散歩」。
土地の起伏がそこに暮らす人々の生活ぶりを左右し、
小さなエリアの中に異なる文化が島のように点在していたのである。
この文化的ダイナミズムこそ、山の手の大きな特徴であり、
おもしろさであったと思う。
坂の上の洋館、谷間を走る路地など、東京が立体的に見えてくる本だ。
写真と文章をたどれば、そのまま2本足の歩みになってしまうような
心地よいリズムを持っている。
武田百合子。この人もまた、東京散歩の達人だった。
彼女の筆にかかると、東京はこのうえなく、なまめかしい。
朝陽がもろにあたりはじめた中央広場の芝生のまん中に寝ころぶと、
芝生がむくむくと盛り上がってきて、
明治神宮の森の鴉の声が遠く高くなる。
救急車のサイレン、原宿駅の拡声器の声。耳もとで虫の歩く音。
泡(あぶく)のはぜるような芝草のほぐれる音。
地べたの匂いは鰻の匂いに似ている。
孤独な笑顔。新しい過去。お祭りみたいな日常。
東京には、そんな反語がよく似合う。
時間と空間が複雑にひだをなす東京を、
明日からは、この足で歩いてみよう 。
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