0
2 2
乙女は恋をする
手足はひたすら細く、瞳はひたすら大きく。
汚れのない心と、ひたむきな知性がただよう横顔。
中原淳一の絵が、娘たちの夢そのものだった時代。
少女小説の主人公たちは、ひたすら屈託なく
頬をバラ色に染めたり、
大きな瞳に涙をあふれさせたりしていました。
優等生で美人の朝岡香澄を中心に繰り広げられる乙女たちの世界を
てらいなくのびやかに描く「紫苑の園」。
作者は23才で亡くなった幻の少女小説家でした。
そよ風わたり、ひかり輝く武蔵野の自然。
ナイト・ガウン、フルーツポンチ、軽井沢のキャンプ。
乙女たちの西洋嗜好を充分に満足させるアイテム。
そして恋もまた、さわやかに成就されるのです。
香澄は身のふるえるような言いがたい幸福と、
不思議な心細いような恐ろしさに、
今はもうこらえ性もなく泣きじゃくっていた。
彼女にとっては、本当に長く思われた苦しい日と夜の連続は、
この一つの手紙によってあがなわれてあまりあった。
自分が最も尊敬し、信頼し、世の中で唯一の
はじめての愛する男性もまた
かくまでこの小さい幼い自分を愛していてくれたとは!
恋愛は、乙女が大人の女性に変身するための
一世一代の大イベント。
ヴォリューム最大限の情熱をもって
胸をこがし、心揺らさなくては乙女とはいえません。
あなたの形体も去り、あなたの中から私も逝け、
だがかつて愛した私の愛の想念は、すでに象徴の永遠の世界に、
空の蒼い碧瑠璃の色を以つて
不朽に書き記されてしまつてあるではないのか。
ああ、わが愛よ。ピエール、最上の、最愛のピエールよ。
けれど、乙女の純粋さは、自己愛におぼれ
男心を狂わす毒薬にもなるのです。
「あ、嬉しい。おじさまは、何時も、しんせつだから好きだわ、
弱っちゃった。また好きになっちゃった。
あたいって、誰でもすぐ好きになるんだもん、
好きにならないように気をつけていながら、
ほんのちょっとの間に好きになるんだもの」
乙女が隠し持つ高慢と残酷さと、それに振り回される男。
室生犀星、晩年の作「蜜のあわれ」は
わがままでコケティッシュな金魚と老いた作家の会話だけでできている
シュールな小説です。
少女も女。乙女も女。
可憐な姿の奥には、とろり濃厚な蜜が流れていることを
お忘れなく。
|