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わたしはピアノ
音楽に多少でも興味を持つ人ならば、誰でも一度はピアノを自由に弾きこなす自分の姿を夢想したことがあるのではないだろうか。
白と黒のキーの上を、華麗にすべる指。広がっていくメロディ。複雑に絡み合う和音。ピアノは、私たちが「音楽」に対して持つ原初的な感情をかきたてる、不思議な力を持っている。
楽器は、演奏者と出会うことによって初めて、命を吹き込まれる。どんな楽器にも、さまざまなドラマがつきまとうが、ピアノという、容易に持ち運ぶことのできないこの大きな楽器の運命は、特に波乱に満ちている。
パリのピアノ職人たちを描いた「パリ左岸のピアノ工房」。大げさではないけれど、深い深いピアノへの愛が、いくつもの変奏曲のように奏でられる本だ。
それにしても、なんとすばらしい楽器だろう。
蜘蛛の脚みたいにほっそりとした脚に支えられた漆黒の巨体。
「パリ左岸のピアノ工房」
ピアニストという人種も特別な人たちだ。ピアノはキーを叩くだけで音が出る。
演奏の動作が単純だからこそ、この大きな体と複雑な構造を持つ楽器を前にする者の心は内面へと向かうのかもしれない。
だからそういう意味で、即興演奏というのは、覚醒した状態にいる、
唯一の、確実に覚醒した状態にいるための唯一の手段だ。
自分の指が弾いている音を聞いている。
最初はたぶん機械のようにね。そう、それから音楽が聴こえてくる。
「キース・ジャレット 音楽のすべてを語る」
秘訣は、指をぜったいに動かしてはいけないんだ。
もし動かすとね、指はいちばん新しく表現した触感を
ひとりでに具象化してしまうだけだからね。
「グレン・グールドとの対話」
ピアノ。この不思議な楽器をめぐる神話や逸話には逆説や混沌が満ちていて、果てがない。
けれど、ピアノは万人に開かれている楽器だ。キーを叩けば、私たちはすぐさま、そこから発せられる音に耳をかたむけることができる。音楽の神秘に深く深く触れることだって、できる。
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