●1
「愛のゆくえ」
リチャード・ブローティガン
青木日出夫/訳 ハヤカワepi文庫 680円

●2
「中国行きのスロウ・ボート」
村上春樹 中公文庫 533円
●3

「世界の終りと
ハードボイルド・ワンダーランド」
村上春樹 新潮文庫
上巻590円 下巻552円

●4
「第二之書 パンタグリュエル物語」
フランソワ・ラブレー 渡辺一夫/訳
岩波書店

●5
「図書館逍遙」小田光雄
編書房 1900円

 
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図書館ものがたり



 これは完全に調和した、みずみずしくも、アメリカそのものの、
 美しい図書館である。
 今は真夜中で、図書館は夢見る子供のようにこのページの暗黒のなかに
 たっぷりと引きこまれている。

これは、リチャード・ブローティガンの小説「愛のゆくえ」(----●1)の、始まりの部分。
主人公が住みこみで働いている図書館には、昼夜を問わず、いろいろな人が、自分の書いた本を持ってくる。そう、ここは、人々が自分の思いを綴った本を集める不思議な図書館なのだ。個人の歴史としての本、個人の想念としての本、あるいは、その人そのものとしての本。それらの本がぎっしりと詰まった図書館を思い描いてみる。

本一冊一冊が、小さな宇宙であるならば、図書館の壮大さは、どう表現されるべきだろう。森羅万象、時間と空間、思想と快楽、歴史と未来。この世のあらゆるものが詰まった巨大な貯蔵庫? だとしたら、図書館は、まさに「この世」そのもの。

最新作でキーワードとして「図書館」を取り上げている村上春樹。この作家の内面にある「図書館」は、ごく初期から作品に現れている。例えば短編集「中国行きのスロウ・ボート」のなかの一篇では、シーズンオフのリゾートホテルの片隅にある小さな図書室が登場する。

 その昔は暇を持てあました逗留客に結構重宝されたのだろうが、
 今では利用する客なんて殆どいない。
 蔵書の数はそこそこのものだが、その殆どは
 時代にとり残された遺物のようなものだった。(----●2)

暗くて静か。整然としているが、過去の匂いと、かすかな気配で満たされた図書館。ここに描かれている図書館は、まるで「死」のようである。

あるいは、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(----●3)。ここでは、図書館は、世界のほぼ真ん中に位置している。

 僕が図書館の扉を押したのはその何日かあとの夕方だった。
 重い木の扉は軋んだ音を立てて開き、その奥には長い廊下が
 まっすぐにのびていた。
 空気はもう何年ものあいだそこに置き去りにされていたかのように、
 ほこりっぽく淀んでいた。
 床板は人々の歩むかたちに擦り減り、漆喰の壁は電灯の色にあわせて
 黄色く変色していた。

「僕」の仕事は、図書館に収められた古い夢を読むこと。古い夢の集積場所としての図書館――。

文学作品のなかの図書館でもっとも有名なのは、サン・ヴィクトワール図書館。ラブレーの「パンタグリュエル物語」(----●4)に登場するのだが、これほどラディカルな図書館は他にはない、と誰もが断言するだろう。この図書館の蔵書のタイトルが延々と列挙されるのだが、ボリュームいっぱいの諷刺と諧謔と情熱と怒りが噴出していて、読む者は爆笑しながら、その毒に打たれるのだ。

アルゼンチン国立図書館の館長だったボルヘス。そして、オルレアン図書館長だったバタイユ。またはサルトルの「嘔吐」に出てくる図書館。そんなふうに、図書館好きにはたまらない話が満載されている本がある。それは、「図書館逍遙」(----●5)
この本の著者のあとがきには、こんなことが記されている。

 ‥‥本当に大事なのは、図書館と読者の出会いによる、
 本と読者の物語であり、そのことによって、
 図書館の物語もはじまるのではないだろうか。その時初めて、
 図書館は生きられる図書館として姿を現わすのである。