「定本 二笑亭綺譚」
式場隆三郎・藤森照信・
赤瀬川原平・岸武臣・
式場隆成
ちくま文庫

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「二笑亭」は、昭和のはじめに、東京に実在した建物である。変わり者のひとりの男、というより、その奇行に耐えきれなくなった家族でさえ別居し、最後には強制的に精神病院へ入院させられた男が、自分の設計で建てた家である。当時、賑やかな通りにあったこの家は、異様な雰囲気を放っていたらしい。
たいへん惜しいことに、今はもう存在しないこの建物「二笑亭」を、何とか本の中に再現しようとしたのが、この本。土台となるのは、芸術と精神医学の関係に興味を持っていた式場隆三郎の著書であり、それに、息子の式場隆成や赤瀬川源平らの評論や、再現模型などを加え、いろんな角度からこの神秘的な建物に迫っている。
常識をくつがえす間取り、異形の窓、奇妙な文様‥‥。建物の主人、渡辺金蔵の独自の美意識にもとづいて作られた家は、この建物に入る者も、精神の錯綜に誘う。随所に、作った者の狂気が込められているような怖ろしさもあり、と、同時に世間の常識をやすやすと飛び越えるパワー、爽快さ、自由な精神の動きがあるのだ。
私たちが、奇妙な建築に惹かれるのは、私たちがそこに、自分たちの精神の奇妙さの一片をそこに見出すからであろう。さまざまな不均衡や、おどろおどろしさ、見栄と欲望‥‥。そんなほころびを、いったんは、避けたり憎んだりしても、しまいには、愛さずにいられない。
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