語 り の 本 

  「奇抜の人 埴谷雄高のことを27人はこう語った」
木村俊介
平凡社 2000円

立花隆の「調べて書く」ゼミから生まれたインタビュー集。著者は立花の生徒で、インターネット上に発表していたものに手を加えて本にまとめたもの。埴谷雄高に生前関わったさまざまな人――近所の人、行きつけのコーヒー店の主人、文壇の人などに埴谷雄高のことを聞くという、独特なインタビュー集。テーマとして埴谷雄高を選んだのが、まずこの試みのおもしろさを支える第一のポイントだろう。けれど、興味は重層的に広がっていく。まず、それぞれの人の語る埴谷像が、すべて違っている事実に驚かされる。そして、ひとつの同じ対象を語る語り口の違いが、インタビューされる人ひとりひとりの人間像を浮きぼりにし、もっと押し進めると、インタビュアーの輪郭も見えてくる。予想外のおもしろさが次々と生まれてくる、「語り」の魅力が味わえる本。
  「カメラの前のモノローグ 埴谷雄高・猪熊弦一郎・武光徹」
マリオ・A/聞き手・写真
集英社新書 660円

3人とも、気取りなく素直に語っているのが何より印象的である。外国人ということも多少は作用しているだろうが、聞き手の人柄がそうさせているのだろう。「巨匠」と呼ばれる3人でありながら、この本の中を流れる空気は、静かで、穏やかで、飾り気がなく、つつましい。ふだん「芸術」と呼ばれる素の顔をかいま見るような不思議な魅力を持ったインタビュー集である。
  「アンダーグラウンド」
村上春樹
講談社文庫 933円(写真は単行本)

サリン事件に遭遇した人々へのインタビュー集。センチメンタルな安っぽいストーリーになることも、ドキュメンタリー・ドラマになることも、注意深く避けている、小説家としての村上春樹の姿勢が誠実で好感が持てる。でも、感情移入しすぎず、客観的になりすぎず、という真っ当さを目指そうとしたことによって、本全体としては、少しわかりにくい印象を持った。続編にあたるオウム信者へのインタビューは「約束された場所で」(文春文庫)。