ね こ の 本  

  「タンゲくん」
片山健
福音館書店 1117円

猫との出会いは、いつも突然だ。たいてい猫のほうからやってくる。やってくるくせに、すぐにまたどこかへ行ってしまう。出会ってしまった方の人間は、恋におちたも同然だ。あこがれと嫉妬の情に身をこがす。
片目の猫、タンゲくんが、圧倒的な存在感でどのページにも登場する。断然かっこいいのだ、タンゲくんは。この本に出会ってしまったら、誰でもきっと忘れられなくなってしまう、タンゲくんを。
  「ノラや」
内田百けん
中公文庫

猫はもちろん、しばしばぷいといなくなるものなのだ。それが猫だ。でも猫がいなくなって身も世もなく泣きじゃくる老作家が登場する猫のお話は、世界中どこを探してもこの1篇だけ。
  「猫町」
萩原朔太郎/作 金井田英津子/画
パロル舎

朔太郎の「散文詩ふうな小説(ロマン)」。心の底がヒヤッとするような、感覚世界の旅。幻想的でノスタルジックな雰囲気を漂わせる版画が、文章の世界とうまく引き立てあって、繰り返し読みたい一冊に仕上がっています。どこまで行っても猫、猫、猫の街。それは、怖いけれど、いつか行ったことがあるような気のする街でもある。同じ版画家によるシリーズとして、漱石の「夢十夜」や内田百けんの「冥土」も魅力的。
  「あしたうちにねこがくるの」
石津ちひろ/文 ささめやゆき/絵
講談社 1500円

「あしたうちにねこがくるの」。何てすてきな言葉だろう! 口にしただけで、あのしなやかな体が、あのふわふわした毛並みや、自由に踊るしっぽの感触が、心によみがえる。もう一度言ってみる。「あしたうちにねこがくるの」。
  「夜にみちびかれて」
ロイス・ダンカン/文 
スティーブ・ジョンソン&ルー・ファンチャー/絵
成沢栄里子/訳
BL出版 1300円

人々が寝静まったあと。それは、猫が生きる、もうひとつの生。いや、夜の猫こそが、本当の猫なのかもしれない。
夜の猫のミステリアスな雰囲気のよく出ている絵本。日だまりの猫も悪くないけれど、暗闇と猫は、不思議なほどよく似合う。
  「猫のいる日々」
大佛次郎 六興出版(絶版 現在は徳間文庫)

大佛次郎は、幼い頃から近くに猫がいて、そして、ずっと猫を飼い続けた人。この本は、大佛次郎の死後、猫についての随筆や物語を集めたもの。
生涯にわたってつきあった猫が何百匹にもなるというから、正真正銘の猫狂いとも言える。なおかつ、「猫は決して自分の心に染まぬことをしない。そのために孤独になりながら強く自分を守っている。用がなければ媚びもせず、我儘に黙り込んでいる」という文章を読んだりすると、ごく正統的な猫好きだとわかる。猫好きを自認する人は、この本を一般基礎入門コースとするべきかもしれない。ただし、この少しあとに、「贅沢で我儘で他人につめたくすることは、人間の女のヴァンパイヤより遙かに上だ」とあり、猫を可愛がるのは、そういう女に溺れるのと同じような気持ちになれる上に、女よりもリスクが小さいからいい、とあるあたりの男心は、わたしにとっては微妙なところだが。
  「つづきのねこ」
吉田稔美
講談社 1000円

大事なねこを亡くした体験をつづった小さな絵本。「失う」ことの痛みをまっすぐに見つめ、そこから生まれる新しい出会いに光を当てていく。絵本だけれど、詩集。詩だけれど、物語。
シルエットだけで描かれたねこも、生きることと死ぬことの哀しみを正確に表そうともがく言葉も、鋭く心に突き刺さる。ねこを飼ったことのある人は、きっと、誰もが深くこの本のことを愛すると思う。
    「100万回生きたねこ」
「100万匹のねこ」