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私と弟はすっかり窮屈になった部屋の隅で
深皿に盛られた麦チョコを食べた。
皿から手掴みして一気にほおばっても、
一つだけつまんでかりりと囓っても、
どのように食べても麦チョコはおいしかった。 |
母が家を出た。ぐうたらな父親は仲間を呼んで家で麻雀のやり放題、そして、愛人「洋子さん」が家にやってきた。大ざっぱで、飾り気がなくて、自由で、そんな洋子さんと過ごしたひと夏を思い起こさせるのが、麦チョコ。
チョコレートなのに、ちっとも洋風じゃなくて、どうやったって上品には食べられない。強い個性もなく、贅沢でも質素でもない。でも、普通でありきたりのものが持つふところの深さっていうのは、ときに、その人まるごとを包み込んでもあまりあるほどだ。
この作品は、芥川賞受賞作「猛スピードで母は」の本におさめられてます。
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